五.五感日記 〜I sometimes see ghosts and hear things〜

誰もがもってる「微」霊感があるだけ。第六感に満たない五.五感な日々の雑記。

「俺の話を聞け」御札をめぐる霊の叫び

 タイトルですが、クレイジーケンバンドとは関係ありません(笑)

 

ぼくが社会人になってからの話です。

 

当時、とある金融関係の会社に勤めていた新入社員のぼくは、新人研修で指導してくださった先輩が、異動でぼくと同じ支店に配属になり、引っ越しの手伝いをすることになりました。

 

先輩の引っ越し先であり、ぼくも住んでいた社員寮は、お世辞にもキレイとは言い難く、食堂の壁にヒビが入っていてそこから外が見えるという荒れようで、まさにオンボロといっていい建物でした。

 

拭いても拭いてもぞうきんが黒くなるなか、頑張って掃除をし、部屋に荷物を運んでいると、先輩が「なんだこれ」と一枚の紙の包みを持ってきました。

 

先輩の部屋の押し入れから出てきたそれは古い御札でした。

 

文字が達筆すぎてよく読めなかったのですが、「佛」という字が入っていました。

 

「俺、こういうのダメなんだよ」と気味悪がった先輩は「お前、処分しておけ」と半ば押し付けるようにぼくに御札を預けてきました。

ぼくもあまりいい気持ちはしませんでしたが、先輩の言う事ですから逆らうわけにもいきません(上下関係の厳しい、わりとブラックな職場でした)。

 

しぶしぶ預かったぼくでしたが、さすがに御札をゴミに出すわけにもいかず、翌日、地元の神社に持って行くことにして、その日は御札を自分の部屋に持って帰りました。

 

六畳一間の自分の部屋の中に御札を上げる気にはなれず、玄関の隅っこに御札を置き、布団を敷いて寝ました。

 

その日の夜です。

 

苦しくてふと目が覚めました。

 

体が縛り付けられたようにぴくりとも動かず、汗がだらだらと流れていました。

 

金縛りというのを体験したのはこの時が初めてです。

目だけがうっすらと開き、時計を目の端でみると午前2時半くらいでした。

 

手は指一本動かせず、気持ちばかり焦るなか、ぼくは部屋の中に人の気配があることに気づきました。

 

それは男でした。中年くらいの男性だったと思います。黒い輪郭で覆われていてはっきり姿は見えませんでしたが、その男性はぼくが寝ている布団の周りを、

 

ズズ……ズズ……

 

と摺り足で音をたてながらぐるぐると歩いていました。

 

なにやらぶつぶつと呟いていましたが、声がくぐもっていてよく聞こえません。

 

ぼくは恐怖と気味の悪さに、男の声を聞かないようにしようと、必死に意識をそらしました。

 

だんだんと男の声が大きくなっていき、誰かを罵るような口調で何事か言っていましたが、とにかく聞きたくない、早くどこかへ行ってくれ〜、と汗にまみれた布団のなかでそればかり念じていました。

 

すると、ピタリと男の足が止まり、突然、

 

バン!

 

と男が両手をぼくの枕元に着いたのです。

 

そして、鼻が触れ合うかという距離でぼくの顔の前に男がぬっと顔を突き出して

 

「俺の話を聞け〜!」

 

とものすごく大きな声で怒鳴られました。

 

瞬間、ひゅっと息が止まり、全身の毛が総毛立ち、「やばい」と大きな恐怖を感じました。

 

その時です。

 

なぜかたくさんの犬の吠える声が「ワオーン」と一斉に聞こえ、スーっあたりが明るくなり、気づけば朝になっていました。

 

近所に犬を飼っている家もなかったのでとても不思議でしたが、犬の鳴き声と一緒に男の姿は消えていました。

 

こどものころから犬を飼っていた家で育ち、僕自身、犬好きだったので、昔飼っていた犬が助けてくれたのだ、と感じました。

 

GS美神」というマンガに「犬の吠える声には退魔の力がある」という話があるのですが、この一件から、実際に犬にはそういう力があるとぼくは感じています。

 

もし犬を飼っているご家庭なら、家族が知らないだけで、人知れず犬が悪いものから家族を守ってくれているかも知れません。

 

御札ですが、恐怖にとりつかれたぼくはすぐに車を飛ばし、地元の神社に御札を持って行きました。

出てきた神主さんの奥さんに「御札を処分して欲しい」と頼んだところ、なんと断られたのです。

 

「佛という字が入っている。神社ではその字は使わない」というのが主な理由でしたが、こちらとしても恐怖体験の後だったので、「そこをなんとか」とねばりました。

 

しかし、神主の奥さんから邪険に追い払われてしまい、すっかり途方にくれました。

 

困りきったぼくは、檀家でもない近くのお寺に飛び込み、こちらも住職の奥さんに「御札を処分して欲しい」と頼みました。

こちらの奥さんも「御札は神社で、お寺では御札は出さないから」と断られたのですが、神社にも断られ、困っていることを伝えると、「では預かっておきます」ととても快く預かってくださいました。

 

それ以後、あの男は出てきてませんが、お寺が御札をどう処理してくれたのかはわかりません。

 

ちなみに最初にお願いに行った神社ですが、小学生のころから初詣はここ、という長い付き合いの神社でした。しかし、この一件から、すっかりこの神社に対する信心が薄れてしまい、今では初詣は違う神社に行くようになりました。この神社が悪いというわけではないのですが、応対がつっけんどんだったので、なんだか行く気になれなくなってしまったという感じです。逆の立場で考えれば御札の処分を、と突然やって来られて、先方としても迷惑だったのかも知れませんが。

 

もし、引っ越しを考えていらっしゃる方がいたら、引っ越し先の押し入れになにも残っていないか、確認されることをおすすめします。

 

それではまた。